鳩山由紀夫民主党代表、「故人献金」疑惑で2回の記者会見

鳩山代表は「故人献金」疑惑で記者会見を6月30日に行った。この会見に臨んだジャーナリストの上杉隆氏は次のような見解を述べている。

会見の主催は鳩山由紀夫氏。一つは民主党代表として、もう一つは衆議院議員の立場での会見であった。異例の一日二回の記者会見の理由は、次の新聞記事にある。

民主党鳩山由紀夫代表の政治資金管理団体友愛政経懇話会」の政治資金収支報告書に、すでに亡くなった人が個人献金者として記載されていることが分かった。朝日新聞が03〜07年分の報告書を調べたところ、少なくとも5人の故人が延べ10回、120万円分を献金したことになっていた。遺族のうち、1人は「よく分からない」と答えたが、4人は「死亡後に献金した事実はない」としている〉(6月16日/朝日新聞朝刊)

 死者が政治献金をできるはずもない。よって、疑惑が広がるのは当然のことだった。案の定、新聞各紙、週刊誌などが後追い記事を次々と掲載し、麻生自民を追い詰め、政権奪取に燃える鳩山氏は、一転、追及される身になった。

 直前まで政治資金の所轄大臣であった弟の鳩山邦夫総務相は、大阪での講演の中で、次のように語って兄を厳しく追及した。

「兄の鳩山由紀夫は、故人献金をもらったという。故人といっても個人ではなく故人。つまり死んだ人からの献金だったいうわけです。もちろん、名前を使われて怒っている人たちもいる。私は選挙担当の大臣だったので、虚偽記載ならば大変重い罪であることを知っている。それは大犯罪だ。そういう代表を戴いた民主党に、自民党を責める資格があるのか」

 こう吼えた鳩山邦夫氏だが、自民党の他の議員は比較的静かな様子である。それもそうだろう。政治資金規正法の問題は深追いすれば必ず自らに降りかかってくる。政治資金でまったく脛に傷のない国会議員のほうがむしろ少数派である。

 そもそも政治資金規正法という法律を、完璧に遵守している政治家がどれほどいるというのだろうか。それは本気になってあら探しをし、捨て身で叩けば、大抵の事務所からは埃程度は舞うようなザル法なのである。

 所詮、多くの国会議員に性善説でモラルを求めるのに無理があるのだ。古今東西、大多数の政治家は、その程度の遵法精神くらいしか持ち合わせていない。それは現在の永田町にも当てはまる。

 もちろん例外もいる。その例外のひとりがクリーンといわれた鳩山氏だっただけに、この疑惑が発覚してからというもの、周囲の雰囲気は微妙であった。

 だが、公党の代表、そして将来、内閣総理大臣のイスにもっとも近い政治家としては当然に説明責任が求められた。

「私の資金管理団体のことに関しまして、国民のみなさま方にご心配、そしてご迷惑をおかけしておりますことを心からお詫び申し上げます。本日は、鳩山由紀夫個人として、民主党代表という形ではなく、個人として申し上げたいと思います」

 沈痛な面持ちで衆議院第一議員会館の会見場に現れた鳩山氏はこう続けた。

「報道のみなさま方から、この間、ご指摘をいただきました私自身の資金管理団体友愛政経懇話会』の収支報告書に関して、ご報告を致します。ご指摘をいただいて、ただちに調査に入るにあたりまして、事務所の中でやっていては限界があるということで、ここにおられます五百蔵洋一弁護士にお願い申し上げて、すべて客観的に、公正に、つぶさに、調査をしていただくことをご依頼申し上げたところでございます」

 この後、鳩山氏は事実関係において、自らの過ちを認め、当該秘書の処分(公設秘書の解任)を発表した。

 果たして、これで説明責任を果たしたといえるだろうか。与党は否定的である。

高木陽介公明党選挙対策委員長は同夜、筆者の司会するニュース番組(「ニュースの深層朝日ニュースター)に出演し、こう指摘した。

民主党にしろ、自民党の議員にしろ、疑いを受けたら、説明責任を果たすことが大事です。国民はそれをみているのです。ただ、きょうの鳩山さんの説明では、まだよくわからないところが多々あります。説明責任を果たしたとは言いがたいのではないでしょうか」

 政治資金規正法における疑惑は、与野党問わず、存在している。党幹部や閣僚級だけをざっとみても、小沢一郎前代表、二階俊博経済産業相与謝野馨財務相、そして鳩山由紀夫代表などの名前が挙がっている。

 その中で、鳩山氏の会見はある意味で異例なものであった。会見後にぶら下がった岡田克也幹事長がこう語った。
「これで代表を辞める話ではないと思います。まず個人の問題ですね。そして弁護士も入って徹底的に調べ、その調査に基づいて先ほど、会見を行って、記者の皆さんの厳しい質問にもお答えになって、終わったわけですから、私は説明責任を果たされたし、納得できるものであったというふうに思います」

 岡田幹事長の指摘どおり、鳩山氏は2回目の会見でのべ32回にわたって、希望した記者たち総てからの質問を受け付けた。その中には、最初に記事を書いた朝日新聞の記者たちも5人含まれている。

 回数だけの問題ではない。筆者のようなフリーランス、雑誌記者、海外メディア、すべてのジャーナリストにオープンにされた記者会見であった。

 これは3月、西松建設事件において、繰り返し党本部で記者会見を開いた小沢代表と同様である。

 辞任後、「私ほどマスコミに対して説明責任を果たした人物はいない」と小沢氏は言い放ったが、実際、それはその通りである。

 当コラムの読者ならご存知の通り、記者会見を、記者クラブメンバー以外に開放しているのは現在、民主党だけである。

 政治資金の問題で疑惑をかけられている国会議員は、与野党に多数いるが、すべてのメディアにオープンで会見を開いたのは、あとにも先にも小沢氏と今回の鳩山氏の二人だけである。

 自民党の国会議員は、二階氏も、与謝野氏も、森喜朗元首相も、尾身幸次財務大臣も、その他の誰一人として、オープンな記者会見を開いたことはない。

果たして与党は、これで説明責任を果たしたといえるのだろうか。ジャーナリズムの立場からしてみれば、説明責任という観点では、明らかに民主党に理があるといわざるを得ない。よって、きのうの鳩山氏の記者会見において、筆者は、疑惑の内容の是非は別として、少なくとも次の3点を評価する。

(1)当該秘書のみならず、すべての鳩山事務所関係者を排除して、第三者(複数の弁護士)による調査・報告を行った。

(2)記者クラブのみならず、フリーランス、雑誌記者、海外メディア等、すべてのメディアに会見を開放した。

(3)予定時間をオーバーしながらも、質問が尽きるまで質問の機会を作り、すべてに答えた。

 これを受けて、ひとつだけ言えることがある。それは、過去、筆者の出席した弁明・謝罪会見の中で、鳩山会見の形式は、もっとも健全で、もっとも誠実なものの一つであったということだ。